こんにちは。

 ホームページをご覧のみなさまにはわかると思うのですが、本専攻がカバーする専門分野は、人工知能、ビッグデータ、サイバーフィジカルなどの流行のキーワードを含み、その対象は、分子、細胞、脳、人間、ロボット、組織、社会といったあらゆる階層にわたっています。普通に考えると、専攻としてのまとまりを失ってバラバラになってしまいそうですが、これをひとつにまとめているのが「システム科学」です。

 「システム科学」は専攻名称の半分になっていますが、面白い学問で、この世のあらゆるものごとを対象とします。現代の多くの学問分野が「狭く」、「深く」、「切る」、「閉ざす」方向に進むのに対して、「広く」、「深く」、「結ぶ」、「開く」方向性を持っています。

 「切る」というのは、問題や対象を分解して各要素に切り離し、これ以上分解できないところまで単純化してから調べるアプローチで、要素還元主義とも呼ばれています。問題を単純化するのは結構なことなのですが、切り離す過程でもともとのシステムにとって不可欠な関係性が失われてしまう可能性があります。システム科学ではものごとを「結ぶ」ことで、失われた関係性を取り戻し、現代社会に満ち満ちた複雑なシステムに立ち向かってゆきます。

 よろず問題解決には対象の数理モデル化が欠かせません。現代の多くの学問分野では、それぞれ、対象問題にどんな数理モデルをあてはめ、どのように解決してゆくのかの方法論が確立されていて、パラダイムとも呼ばれています。問題の見方、解決のしかたが確立されていることは結構なことなのですが、学問の発展とともにパラダイムはどんどん細分化していって、門外漢にはわかりづらくなってゆきます。学者同士であっても、分野外には「閉ざす」という状況に陥りがちです。

 もともと数理モデルの数学は特定の対象とは独立です。有名な例として、質量やバネといった機械要素からなるシステムと、抵抗やコンデンサなどからなる電気回路の数理モデルは全く同じ数式で表せることが知られています。このように異なる対象が同じ数理モデルを共有する状況を「同型性」があると呼びます。システム科学ではこうした同型性を手掛かりに、特定の対象にこだわることなく、数理モデルの応用可能性を他の対象に「開く」という特徴があります。

 「深く」だけが共通していますが、私たちは少なくともひとつの専門は深く極める必要があると考えています。これを「浅く」とやってしまうと、政治的リーダーかコンサルタントになってしまって、理学・工学の学位には値しないだろうと考えるからです。

 本専攻のカリキュラムは、この「広く」、しかし「深く」、ものごとを「結ぶ」ことで分野の壁を「開く」活動に役立つように作られています。隣の研究室が何を対象としていても、その研究のポイントを理解し、文句をつけることができる、そんな学生が本専攻の目標です。具体的には、修士1年次前期にアナログ系、デジタル系の代表的な数理モデルをおさらいする座学科目と、それに連動したグループワーク科目を必修とします。研究が始まると、構想発表、中間発表、本発表の3回の発表会を通じて、自分の研究を分野外の人にアピールします。最後に、学生全員によるポスター発表会でお互いの研究を評価し合い、投票によって最優秀賞を選びます。東工大が現在進めている教育改革でも、各コースのカリキュラムには、座学と演習の連動や、アクティブラーニングの実践が求められています。本専攻はこれらの先進の教育を先取りしてきたと自負しています。

 いかがですか? 他とは一味違う「広く」「深く」「結び」「開く」学問をいっしょにやってみませんか。

知能システム科学専攻 
平成27年度専攻長
山村雅幸