先輩からのメッセージ

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先輩からのメッセージ - 修了生第4回 石山 洸さん

知能システム科学専攻を修了し活躍している先輩からのメッセージや現在,在学中の先輩からのメッセージをお届けします.

人を動かす、ワーキング・ソーシャル・サイエンティストに

石山 洸さん 石山 洸(いしやま こう)さん
2000年、中央大学 商学部入学
2006年、東京工業大学 大学院総合理工学研究科 知能システム科学専攻修士課程修了。大学院時代は出口研究室に所属
2006年4月、株式会社リクルートに入社。インターネットビジネスの調査・解析などで活躍中

9.11がきっかけで、文系から理系へ

 大学は、中央大学商学部の商業・貿易学科でした。2年生の夏休み、9.11が起きました。いろいろな報道があり、経済も大きく動く中、「もう少し客観的に世の中を見たい」と思い、比較的数理的なアプローチをしている経済学の先生のところに行きました。その先生から、「U-Martプロジェクト1)」を紹介されて理系に近づいていった、というのがそもそもの始まりです。
 大学3年生まではコンピュータを全然知りませんでした。でも「U-Martのプログラムを書いてうまくいったら、アメリカに奨学金で行けるかも」と先生から言われて、やってみようと思ったんですね。そこで生まれて初めてJAVAのプログラムを見て、意外にも意味がわかりました。人間の言語と飛躍なく書けると気が付いたのです。2週間でプログラミング言語を全部覚えて、それまでの文系の知識をもとにしたアルゴリズムを書き、アメリカで開催された国際会議2)に行くことができました。

文系と理系の知識を併せ持つ、出口先生との出会い

 出口先生に出会ったのはこの時です。先生は国際会議でも、日本語で話すのとまったく同じに、熱く語っていました。9.11があった直後なのにグローバルな場で堂々と発言している姿勢、文系の知識と理系の知識をつなげようとしている先生のスタンスに、「これはすばらしい!」と感じました。経済学と理学の両方の博士号を持っている出口先生のもとなら、社会科学の基盤を無視せず、意識しながら研究を進められる。東工大の大学院に進んだのは、出口先生がいらしたからです。
 とはいえ、実際に東工大の大学院に入学するには、数学が必要です。大学入試にすら数学がなかったので、これは大変でした。中央大学で、数学の博士号を持っている一般教養の先生に事情を話し、毎日通いました。少なくとも微積分と線形代数だけは、完璧にしておこうと。このキャッチアップは、本当にきつかったです。

「人を動かす」人たちとの出会い

 修士1年の冬に、アラン・ケイ博士が参加する「C5国際会議3)」で学会に参加しました。その時の博士の話に、「メディア・レボリューション」という言葉があり、メディアというもの??紙とコンピュータや、リアルとコンピュータの対比ーを意識し始めました。そこで、リクルートのインターンシップに行くことにしたのです。
 その時、リクルートの担当者で、仕事をしながらインドネシアにパソコンを寄付する活動をしている方がいました。その方はアラン・ケイ博士に「コンピュータの父と呼ばれているほどの方なら、少しでもパソコンをインドネシアに寄付してもらえませんか」と言いに行き、博士はその言葉に心を打たれ、コンピュータを寄付するだけでなく、インドネシア語版にしたプログラミング言語をプレインストールしたそうです。
 この話には、本当に衝撃を受けました。「自分は、プログラムを書いてコンピュータを動かすことはできたけれど、人を動かすという考えが足りなかったな」と……。
 人を動かすことや、自分のWill(意志)で、何かが大きく変わる。リクルートにはそういう「気持ちのイノベーション」を起こせる人がたくさんいると思い、入社を決めました。
 大切なのは、踏み込もうとする「勇気」です。テクノロジーによってイノベーションが生まれるのは当然ですが、その手前に、絶対に人間の気持ちの変化とか、進化があるはず。そこを失ったら良いものは生まれないと思います。
 出口先生は、よく「ワーキング・ソーシャル・サイエンティストになりなさい」と言われていました。卒業した現在も、修士2年間で発表論文を18本残したことを誇りに、科学的なアプローチを強みにしながら、マーケティングの業務を行っています。今の自分は一種のワーキング・ソーシャル・サイエンティストだと思いますし、一生そうあり続けたいと願っています。(談)

1) UnReal Market as an Artificial Research Testbed:人工市場を媒介とした経済学者と工学者の交流の場を提供することを目的として設立したプロジェクト。http://www.u-mart.org/html/index-j.html
2) カーネギーメロン大学で開催された国際会議。
3) Conference on Creating, Connecting and Collaborating through Computing:コンピュータを利用した創造・連携・協調に関する国際会議。

石山 洸さん 石山 洸さん